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千夜千冊1843夜、テッド・チャンさんの『息吹』を読んで思い浮かんだことを書いています。
親父が死んだ後、ぼくはセイゴオ先生が何度かこの映画、《メッセージ》を紹介していたのを思い出して観た。原作が今夜の著者、テッド・チャンが書いた『あなたの人生の物語』であることは、同作品がイシス編集学校「破」コースの課題本になっていたことで知った。
モサドの手下のエプスタインに誘われたハリウッドセレブや政治家たちが、世界中から組織的に誘拐され売られた子供たちに性的虐待をし、自分たちの若返りのために、子供たちからアドレノクロムという脳内物質を強制採取して殺害しているということを知ってから、ハリウッド映画なんて金輪際見るものかと思っていたので、《メッセージ》はぼくが最後に観たCG大作映画ということになる。
ぼくはベストセラーにも、なんとか賞受賞作品にも、○百万部のヒットというフレーズにも心が動かされない。というかぼくは何でも、大勢が読めば読むほど「自分はいいや」と思ってしまう、あまのじゃくなところがあるらしい。少し気になる場合は、映画に要約されてから、見てみたいと思ったら見るくらいで、時代小説の好きな作家以外の小説は、理由が無い限り読まないので、小説というもの自体に疎い。
ただ《メッセージ》は、いわゆるハリウッド映画的なプロパガンダに左右されていない印象を受けた。詳しいことは本編千夜千冊を読んでもらうとして、ぼくとしては蛸宇宙人が墨を吐いて話すのがおもしろかった。書を知る東洋人ならではの発想なのだろうか。
というわけで、ぼくは彼の作品に好感を持った。またドミニク・チェンさんがチャンさんにAIに関するインタビューをしている記事を読んで、人柄にも信頼感を持った。今夜の短編集も一つづつが、セイゴオ先生の紹介の仕方がまた、ネタバレしているのに味わってみたくなる書き方になっていて、ウチの檀那寺近くの寿司屋さんのように”いい仕事”をしていそうな予感がする。
短編集の中で一番気になったのはやはり『息吹』である。ぼくは今脳がおかしくなっていて、先生が肺がんなせいか、この物語がぼくと先生を不思議な縁でつなげているようにも思えてくる。ぼくは耳鳴りでよく眠れないのは、脳か自律神経が興奮している(交感神経優位になっている)せいではないかと考え、最近Мさんに紹介してもらったYouTube整体師の動画を参考に、夜布団に入ったら肋骨の筋肉、つまり肺のあたりをスリスリさすってほぐしている。そのおかげかなんとか眠ることができているし、疲れもとれるようになったと思う。
SFとはとくに関係ないかもしれないし、何の保証も無いが、ぼくの脳みそは死ぬまではなんとかなると思っている。その「なんとかなる」を数学的に言い表すと「計算不可能なプロセスを処理する実行能力がある」ということになるだろうか。とにかく今は耳鳴りのことを悲観してはいない。
人生も、向かいたい方向は分かってきたので、あとはタイミングと流れに任せようという気分だ。EDEXのAさんが映画の自主上映会を企画しようとしているのに乗って、ぼくも地元で小さな自主上映会が開けたらいいなとか。作曲や友達の店のことも、今だと思ったときに動こうと思う。タイムパフォーマンスならぬ、タイミングパフォーマンスといったところか。日本で言うところの「間」とか「間合い」とか、「機」や「潮目」みたいなことではないだろうか。多世界解釈においても、編集は遊びからはじまるはずだ。
「Wired」のサイトを覗いたら、モサドの小児性犯罪者エプスタインから巨額の資金提供を受けていたという伊藤穣一とオバマが、金フリッジのアメリカ国旗を背景に、当たり障りのないことを喋っている動画が目についたが(一体何のPRなんだ?)、11の質問へのチャンさんが答えについては、ぼくも似たような感想を持ったので、先生が意訳をしておいた分についてだけ、色々とつらつら書いてみた。
QA1について
ぼくもデジタル技術が地球の存続のために役立つとは思っていない。むしろ電磁波など生物全体にとって有害な面のほうが多いと考えている。人間がデジタル技術を今後も使い続けたいなら、まず加速主義から卒業し、電磁波の有害性について学び、5Gを禁止することが先決である。
また、2018年に出版された武邑光裕さんの『さよなら、インターネット』には、今日のスマート・フォンやパソコンには63種以上のレアメタルが使用されており、インターネットの増長は資源の欠乏と政治的紛争を招くと書かれてあり、現在その恐れは現実のものとなっている。増え続ける電子機器廃棄物は不法投棄され、環境汚染の原因となっている。新製品や新機能を増やす前に、電子機器の確実なリサイクルと長期利用を可能にしてほしいものである。
QA2について
気候変動は起きていないという学者もいる。ぼくは軍産複合体が気象操作をしているために、それ以外の人間の経済活動がどれほどを自然に影響をあたえているのかという観測データは、まともには得られていないのではないかと思う。しかも軍産複合体は気象操作(線状降水帯、巨大台風、ゲリラ豪雨、巨大雷、竜巻)による災害を気候変動(地球温暖化)のせいにしている。
そして気候変動(地球温暖化)の原因を牛のゲップや稲作のせいだと、自分たちの金儲けの都合でいちゃもんをつけて、世界中の農家を弾圧し、意図的な食糧危機と飢餓を起こしているのだ。挙句に貧乏人はコオロギだのゴキブリミルクだの、遺伝子操作やゲノム編集をした発癌物質と添加物たっぷりの餌を食えと言っている。
日本が土砂崩れなどの災害をなんとかしたいと思うなら、根の張る木々を植えて山林の保水力を取り戻し、無農薬や無化学肥料の有機農法や自然栽培を推奨して土中環境を改善し、大地の呼吸と生物の多様性を取り戻すことが大切だ。
QA3について
ぼくも技術の中立は難しいと思う。特に金のかかる技術を開発するには、研究者は資金提供者の言うことを聞くことになるだろう。技術開発に限らず、本当に世の中に良いことをしようと思ったら、なるべく金をかけないほうが、長期的に見てもうまくいくように思う。たとえばペシャワール会の灌漑事業は河川の氾濫が起きても、現地の人々が現地の材料で用水路を修復できるようにと、地道で誠実な人材育成をしているおかげで、着実に豊かな大地を生み出している。
QA4について
日本では再生可能エネルギーなどと言って、巨大風力発電やメガソーラーを設置するために、二酸化炭素を吸って酸素を出してくれる森林を伐採しまくって環境を悪化させている。30年後の未来を不毛のディストピアにしたくないなら、子供たちに自然と共に生きる方法を伝える一方、大人たちが今残っている地球の緑を必死で守らないと間に合わないだろう。ぼくは作家というほどではない、ただ趣味でマンガを描いているだけの人間だが、地元や友達の住む地域に、そうした学びのできる場をつくれたらと思う。
QA5について
ぼくはまだ一度も生成AIやチャットGPTなるものを一度も使ったことが無いので何とも言えないが、なんとなく今後も使わない気がしている。単に自分で考えるほうがおもしろいからだ。
QA6について
ぼくもAIが家族や友人になることはないし、AIが意識を持っているというのは製品のプロパガンダだと思う。それにしてもチャンさんの譬えは分かりやすい。ぼくは彼の言った映画を2本ともまともに観たことが無いのだが、あらすじだけでAIがどういうものか分かる。
QA7について
ぼくもデザイナーベビーを注文するような親は、既に子供を商品として見てしまっていると思う。もし自分が遺伝子操作でつくられたと知ったら、その子供は自分という存在や、勝手に遺伝子を操作した親のことをどう思うのだろう。IQや、いい容姿を与えてくれてありがとうと感謝するとでもいうのだろうか。30年後の社会について考えるなら、こうした問題を当事者の気持ちになって想像してみるといいのだろう。
QA8について
ぼくは自分自身とは異なるキャラクターの視点から物語を描くが、普段のネットでのコミュニケーションにおいて日本人以外のふりをする必要を感じたことが無いので、アメリカではわざわざ自分の国籍や人種までも偽る人がいることに驚いた。
この問いの質問者は、日本の若者に顕著な、性別や年齢などを隠したオンラインでの表現活動のことを想定しているのだろうか。チャンさんの答えと、質問者の聞きたいことが微妙にかみ合ってないような感じもする。チャンさんは自身のルーツやエスニシティの奥底にあるものを物語に活かしており、それが功を奏しているように見受けられる。一方アメリカで異なる人種であるかのようなふりをする作家がいるのは、その人物が自分の人種に生きづらさを感じているからなのだろうか。どういう理由があるのかよく分からない。
たしかにチャンさんの言うように、読者というのは正直さを求める。ぼく自身も読者として物語作品に触れる場合、作品と表現者の人格を切り離して考えることはできないタイプの人間だ。「アメリカの人種政策の評判が悪いように、それがネットであっても評判が悪いものは悪いままに進むでしょうね」という先生の意訳は、色々な意味に読める。
質問者は、国籍や性別、年齢などを隠した今の若い表現者たちの物語が、これからどんな傾向をもっていくかを知りたいのか。世界中どこもかしこもチェーン店やショッピングモールだらけの同じ景色になっていくように、物語の中身までがグローバル化、均質化していくのはさぞつまらないだろうが、実際に本当にどうなるかなんて、作家個人が予想できるようなことではないようにも思う。物語はただ、表現者一人ひとりが、自分の国や世界とどう向き合っていくかをうつすだけである。
一方でぼくは、矛盾しているようでもあるが、《メッセージ》の中の一番のメッセージを「そのままの意味」として受け取った。そういう人は一体世の中にどのくらいいるのだろう。ぼくは、宇宙人ヘプタポッド=テッド・チャンさんは、ぼくたちが主人公ルイーズのようにメッセージを信じることができれば、そのメッセージがぼくらの内面世界にも反映され、認識の変容が現実の姿をも変容させるという、世界編集をしたのではないかと思うのだが。
SFに未来を想う春の暮
呼吸するこの清明の奥深く