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和泉式部日記

執筆者の写真: Hisahito TeradaHisahito Terada



 千夜千冊0285夜・意表篇、和泉式部の『和泉式部日記』を読んで思い浮かんだことを書いています。

 

 

 共読ナビの仕事がおおよそ終わった。学生さんたちが、みんなよくがんばってくれた。一人一人がユニークで、対話していて楽しかった。イシス編集学校ではもうすぐ「多読アレゴリア」が始まる。ぼくは直接は参加できなさそうだが、「田中優子学長のEDO風狂連」に、今福龍太さんの「群島ククムイ」に、武邑光裕さんの「OUTLYING CLUB」、オネスティさんらの「音連れスコア」に「読み書き探Qクラブ」「千夜千冊パラダイス」と…どれもこれもかなりおもしろそうであるし、それぞれの世界編集の実践につながっていくのではないだろうか。

 

 さて今夜は『和泉式部日記』だ。日記といえば、ぼくもこのブログの他に、手帳の、本来は予定を書くスペースに5行日記を書いている。ブログと違いこの5行日記のほうは、その日の出来事や家族のことなど、本当に日々の記録に過ぎない。

 ぼくの知識の量など、先生からすると本当に僅かなものだが、ぼくも頭の中に「思い」を溜めておくのが嫌だというか、同じ考えが頭の中でぐるぐるするのが嫌なので、アウトプットすることで手放していくようなところがあるようだ。

 

 今夜のお話では、セイゴオ先生が女房文学の最高傑作とも言われているという『和泉式部日記』を、和泉式部の波乱に満ちた生涯とともに紹介している。

 

 平安女流文芸に親しむには、一体なぜ女性たちが歴史的な文芸作品を残せたのか、この時代特有の背景を知っておくとよいらしい。詳しい解説は千夜本編を読んでもらうとして「オツ千」で紹介された樋口清之さんの『日本女性の生活史』の話も合わせて、先生の言葉をお借りしながら説明すると、この時代の下級貴族の家の子女が、「女房」となって上級貴族の子女に教育を施すことによって、家ごと安泰になるという特殊な貴族社会事情と、藤原一族による権勢シナリオが絡み合い、王朝サロンが女流文芸の熱情に彩られ、華麗で異様に洗練されていったのだそうだ。

 

 ぼくは昔から、こうした女流文学的なものが苦手だった。いわゆる「女の争い」が苦手というか、あまり興味が持てないというか…だからと言っては言い訳のようだけど、『源氏』も『枕』もちゃんと読んだことが無い。前回の千夜でやっと『枕』は読んでみてもいいかなと思い始めたところだ。けれども今夜のお話を読んで、なんだか『和泉式部』も読んでおいた方がいいような気がしてきてしまった。

 何故かって、やっぱり先生の紹介の仕方が上手いのである。日記の中の歌に目を止めることを、散歩道の佇み方に譬えたり、内容に没入することの効用を示してくださっていたり、式部の「はかなし」が近現代の人にどれだけ影響を及ぼしているかなど、今夜のお話は、平安女流文芸をどうしたらおもしろく読めるのかを、手取り足取りナビゲートする豪華版のガイドになっている。

 

 今夜のお話で、ぼくは「はかなさ」の重要性を再認識した。桜だって雪だって、はかないからこそ美しいのであって、ぼくはプラスチックの桜や人工雪に風情を感じたりは出来ない。小さきものの美しさも、世阿弥的な「時分の花」も、根底には諸行無常のはかなさがあるのだ。

 

 他にとくに共感したのは「ゆめ」(夢)から「うつつ」(現)へ、「うつつ」から「ゆめ」へ。そのあいだに歌が贈り、返される。その贈答のどこかの一端にわれわれがたまさか佇めるかどうかが、歌の読み方なのだ…というところである。

 

 前回の『枕草子』のオツ千で、穂積方源と吉村林頭が、『源氏』はヴァーチャルなんだけどリアルに揺り戻しがあり、『枕』はリアルなんだけど理想化されたヴァーチャルが出入りすると言っていたが、『和泉式部日記』はもっとリアルとヴァーチャルが綯い交ぜになっていて、読み手がその合間に引き込まれるようになっているのだろうか。

 

 ぼくと先生が知り合ったのは2012年で、共に過ごしたのは丁度約12年くらいだ。期間としてはそれなりに長いけれど、東京に出向いて三次元的な時空間で過ごしたのはほんの一瞬で、ぼくは全くと言っていいほどディレクションを受けたことが無い。直接言葉を交わした経験も数えるほどしかない。

 だけど、だからこそなのかもしれないが、先生は「理想化されていく」のではなく、ずっと「思はむと思ひし人と思ひしに思ひしごとも思ほゆるかな」のままである。

 これからは、先生の面影を追うぼくの現実に、先生の面影が出入りするのかもしれない。

 

コトバオドル夢の入り江に月冴ゆる

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